ストーリーテリングが経営を変える(ハリウッド俳優ケビン・ スペイシーに学ぶ)
by C研 |
はじめまして、中村と申します。現在カナダのメディア企業でインターンをしています。主にマーケティングの分野に従事しており、今後、海外の事例や動向も含めながら投稿していきたいと思います。今回は、ご存じ、CMI(Content Marketing Institute)の記事を紹介します。
コンテンツマーケティングにおけるストーリーテリングの目的は、ストーリーを語ることでファンを増やし、消費者とのエンゲージメントを高めること。ストーリーテリングの重要性はGE、コカコーラ、インテルなど大企業の前例を通して、日本でも多くのマーケターに知られるようになりました。
しかし、なぜ「ストーリーテリング」がこんなにもコンテンツマーケティングの明暗を分けるカギとなるのかご存知でしょうか? その答えは、あの誰もが知るハリウッドスターの、エディンバーク国際フェスティバルで行われたスピーチの中にありました。
「House of Cards」のストーリーテリング
CMIの創設者であるJoe Pulizzi は記事の中で ケビン・スペイシーによる スピーチを紹介しています。
アメリカのネットDVDレンタル大手であるNetflixで配信されているドラマシリーズ、「House of Cards」で主役を演じるケビン・スペイシーはたった五分間のスピーチの中で、ストーリーテリングの本質 をオーディエンスの笑いを誘いながら端的に語っています。
本年度エミー賞に8部門ノミネートされた超人気ドラマシリーズであるHouse of Cardsは、これまでのテレビシリーズとは違い、 エピソードシリーズ全13話を 一斉にネット配信することで大きな注目を集めた事例です。
このスピーチの中で、ケビン・スペイシーは述べています。
Give them [the audience] what they want, when the want it, in the form they want it in…
(オーディエンスが何を欲しているのか、いつ欲しているのか、どんな形でそれを受け取りたいのか、その質問にはっきり答え、それを彼らに与えよう)
House of Cardsの成功は、この全ストーリーを一気に配信することが有効であることを証明しました。これがどうしてコンテンツマーケティングにつながるのでしょうか? そして、この新しい配信方法がどのようにして企業の目指すストーリーテリングへ影響したのでしょうか?
三つのインサイトがこのスピーチの中には隠されています。
一気にストーリーを教えてしまおう!(みな、好きな時に見たい)
Netflixが成功したのはHouse of Cardsの全話を一度に全て配信したからだ。これによって一つのことが証明された:オーディエンスはメディアにコントロールされることなく、自由にドラマを見たがっているということだ。〜Kevin Spacy
従来のテレビ業界では、一週間に一話ずつのドラマ放送が当たり前のことでした。しかし、そのために近年違法ダウンロードや海賊版の蔓延が後を絶たなくなり、多くの業界人が頭を悩ませているのが現状です。
そこでNetflixはドラマ全話を一度に配信させ、オーディエンスがテレビにコントロールされることなく、 自由にドラマを閲覧できるようにしたのです。これはとても画期的なことに聞こえるかもしれませんが、ただオーディエンスの声に耳を傾け、それを実行する、とてもシンプルな方法です。
「オーディエンスはストーリーの続きを知りたがってる、自由な時間にドラマを見たいと思っている。ならば一気にストーリーを教えてしまおう!」
Netflixのこのシンプルで大胆な発想は、今まで当たり前と思われていた考え方を180度転換しました。彼らはオーディエンスの望んでいるものを優れたリスナーとなることでしっかりつかみ取り、率直に実行に移したのです。
的を射た短いコンテンツと魅力ある長文コンテンツを有効活用する
僕らは語るのに長い時間をかけてストーリーを話したかったんだ
さらにスペイシーは、オーディエンスがストーリーを欲していることを強く述べています。
オーディエンスはストーリーをとても欲しがっている。欲しくてたまらないからこそ、彼らは僕らに最高のコンテンツを提供するようにいつも応援してくれるんだ
Joeは記事の中で次のように書いています。「スペイシーが言うように、世界中で愛される優れたストーリーのいくつかは完結するまでに長い時間がかかる。それらのストーリーはシンプルにブログやビデオ、Twitterなどで語りきることはできない」。もし一つのエピソードの中でストーリーが完結にまとめてられていたら、House of Cardsはこんなにも人々を引きつけ、大成功することはなかったでしょう。
このことをコンテンツマーケティングに置き換えて考えると、長文式の一貫したストーリーテリングは顧客との長期的、持続的な関係を構築するのに最高の方法となり得るということです。スペイシーが語ったように、長文コンテンツは今まで以上にストーリーテリングにおいてより大事な要素となっています。
しかし、長い間、視聴者を引き付けるには何かしらの工夫が必要です。長編ともなると時には中だるみもあるかもしれません。だからこそ、ファンを飽きさせない工夫が必要です。事前にしっかりとした計画を練り、的を射た短いコンテンツを要所で差し込み、視聴者と継続的につながり続けることが大切です。
このように、それぞれのオーディエンスタイプやステージに合わせてコンテンツのフォーマットや内容詳細レベルを決定し、 コンテンツの長さを変化させることがストーリーテリングのカギとなります。
ストーリーテリングに消費者行動データを最大限利用
オーディエンスは欲しいストーリーを友達に話し、バスに持ち込み、美容師に伝える。Twitterやブログ、Facebookはファンページを作り、何をストーリーにすべきか知っている。
だから僕らがすべきことはただそれをオーディエンスに与えることだけだ
Netflixは、オーディエンスがワシントンを舞台とした政界ドラマ的なコンテンツを欲しているというデータを基にHouse of Cards を制作しました。そのようなデータはNetflixだから持てるのではありません。実際のところ私たちは簡単に入手できる分析データをたくさん持っています。
重要なことはブログや、ウェブサイト、TwitterやFacebookなどのソーシャルメディアツールから消費者が望んでいるものを探し当て、分析し、ストーリーテリングに最大限に活かすということです。
そこに、オーディエンスの注目を集めるコンテンツを作り上げるヒントが隠されているはずです。
欧米では、企業の大小にかかわらず、多くの企業でソーシャルリスニングが取り入れられています。私は現在カナダのオンラインマーケティング会社でインターンシップをしているのですが、中小企業でも多くの会社がソーシャルメディアを利用したマーケティングに力を注いでいることを日々実感しています。FacebookやTwitter上でのキャンペーンやコンテストで消費者行動を分析することは、もはや必須事項になりつつあるのではないでしょうか。
俳優であるケビン・スペイシーのスピーチが、こんなにもコンテンツマーケティングの神髄を捉えたものだということに、私自身正直とても驚かされました。クリエイティブで説得力があり、オーディエンスの心をつかんで離さない有効なコンテンツを生み出すストーリーテリングは 、コンテンツマーケティングに欠かせない最高のエッセンスだとあらためて気付かされます。
サイモンフレーザー大学
中村宜世